バイオガスプラントの計画 - ドイツで成功している理由 -
ドイツでは3000ヶ所以上のバイオガスプラントが稼動していますが、ドイツでバイオガスプラントが根付いてこれほどまでに成功している最も大きな理由は、電力供給法、再生可能エネルギー法などドイツ政府の政策にあると思います。
しかし、日本においてもドイツと同じような法律ができたとしても、バイオガスプラントを成功させることができるかという疑問を感じます。
日本においてもバイオガスプラントをうまく建設、稼動させるためには、ドイツではどのようにバイオガスプラントが今日のように広く普及するようになったかという背景を、先ずよく理解しておくことが必要ではないかと考えます。
バイオガスプラントと農業と環境保全
ドイツの畜産農家には、必ず豚や牛など家畜の糞尿を溜めておくスラリータンクが必ずあります。 このタンクはコンクリート製のものもあれば、グラスコーティング鋼板やステンレス鋼板の組立式のものや、地面を掘り下げて遮水シートを敷いただけの簡単なものなど様々ですが、畜産農家はとにかくこのようなタンクを必ず所有しています。
ドイツでは家畜の糞尿によって地下水の硝酸性窒素濃度が上昇することを抑制する目的で、法律によって家畜糞尿の農地への年間散布量が窒素換算で1haあたり170kgに制限されています。 そして、糞尿を農地への撒布も土壌が凍結したり雪が降る冬季はできないこととなっており、散布できない一定期間糞尿を溜めておくことができる容量のタンクが必ず必要となります。
このような事情があるためドイツの畜産農家は、スラリータンクを必ず設置しなくてならなくなりましたが、スラリータンクに溜まった糞尿から自然にメタンガスが発生しているのを目にすると、ただ単にタンクを設置しておくだけではもったいないので、タンクの上をカバーしてメタンガスを溜めて、燃料に使ってみようという発想が出やすくなったという背景があります。
農家の中には凝った人もいて、水中ミキサーを使って撹拌したり、スラリーを加温したりしてガスの発生量を増やす工夫がされるようになり、まとまった量のガスが発生するようになると、今度はガスを農業機械のエンジンの燃料に使ってみようとする人も現れます。 エンジンをまわすことができれば、今度はエンジンを動力にして発電してみようとする人も現れてきます。
このような工夫や試みの積み重ねは、特にドイツ南部の農家に比較的多くみられ、徐々に個別型農業用バイオガスプラントの原型とも言えるようなものになり、1992年の電力供給法の発効を契機として本格的なバイオガスプラントに発展していくことになりました。
バイオガスプラントと農家の創意工夫と自己責任
ドイツにおいても日本と同じように、バイオガスプラントのような環境対策の施設は補助金を利用して建設されることが一般的でしたが、日本と大きく異なるところは、補助率がそれほど大きくない代わりに(たいてい25%程度であったと思います)、農家が主体的に創意工夫を凝らして、できるだけローコストでプラントを建設することができたという点にあると思います。
左の写真のプラントはドイツ南部の農家シュレッテラー氏のプラントですが、このプラントもバイオガス専門のエンジニアの技術的アドバイスをもらいながら、ほとんど自分自身で1992〜1993年にかけて設計、製作したものです。
日本の補助事業ではありえない話ですが、一番手前のタンクは、もともとスラリータンクだったもので、これを消化液貯留槽兼ガスホルダーに改造し、その後ろの細長いタンクは発酵槽ですが、これは油のタンクとして利用されていたものを安く手に入れ、発酵槽に改造したものです。 更に、かつては薪小屋だったところに中古のデュアルフューエルエンジンを設置して発電しています。 同氏が飼育している乳牛は30頭ほどなので、15kW程度しか発電できませんが、このプラントの建設に要した費用は1,500万円程度でした。
このプラントの運転、メンテナンスももちろんシュレッテラー氏自身で行なっており、設計からメンテナンスまで全て創意工夫と自己責任において行なっているからこそ成功している、ドイツでは一般的なバイオガスプラントの一例と言えます。
必要に応じたバイオガス専門の技術者の支援
いくら農家自身の創意工夫といっても、農家の人達のほとんどは大学でバイオガスについて学んだわけではありませんので、専門的な知識の限界があり、どのようなレイアウトにすべきか、あるいどのような機器を利用すべきかというようなことで判断できない場面もありました。
そのような時には、農家の人達はバイオガス専門の技術者に支援をあおぎ、その技術的なアドバイスやサービスに対価を支払うことで、結果的に失敗のない、効率的なバイオガスプラントをローコストで建設することができました。
ドイツでこれほど多くの成功しているバイオガスプラントが稼動しているわけは、確かにドイツ政府の政策による部分が大きいと思いますが、消化液を液肥として農地に還元できるシステムができあがっているため、消化液の処理について考える必要がなかったこと、ある一定の基準さえ満たしていれば補助金を得ながら、オーナーの創意工夫を活かすことができたこと、必要に応じてバイオガス専門の技術者によるサポートを得ながら効率の良いバイオガスプラントをローコストで建設できる環境などが整っていたことなどが大きなプラス要因になっていたのではないでしょうか?